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目の健康

お話し:薬学士 大浦純孝(株式会社 人間医学社)

 現代は情報化社会だという考えに異論はないと思います。
 私たちに入力される情報の8割近くは視覚情報だといわれています。昔と比べれば格段に情報量が増えているだけに、目を酷使する機会も多いのではないでしょうか。
 モノを見るには光がなければ成立しませんが、その点、現代はそれこそ一晩中でも照明の中でテレビやインターネットを利用できますから、視覚情報量は蛍雪時代とは比べようもありません。
 しかし、インターネットでパソコンに映し出される映像は細かな光の点滅信号ですから、その画面を長時間見続けることはかなりのストレスを私たちに強いることになります。

 私たちは強烈なストレスを受けると交感神経が過度に優位になってしまいます。すると、血管が収縮し、脈が速くなり、血圧が上昇してきます。また、交感神経が過度に優位になると、白血球の中の顆粒球が増加してきます。顆粒球は増加して、それらが自滅するときに大量の活性酸素を発生します。その活性酸素で組織を傷つけて、器質障害を招くことにもなります。
 体内で発生する活性酸素の大半はこの顆粒球から発生するものだと安保徹先生(新潟大学大学院教授:世界的な免疫学者)は述べられています。
 私たちは自らの細胞や組織の変性、破壊とひきかえに情報を得ているといってもよいでしょう。

 テレビを観るにしても、インターネットを利用するにしても、タダで見られるわけではありません。そこには必ず経済的交換がなされています。
このことは目に関しても例外ではありません。
 モノを見るにはエネルギーが必要であり、エネルギーが発生するところには活性酸素も伴うのです。こうしたことから、目の健康を考える上でそのポイントとなるのは、この活性酸素をいかに低く抑えるかにあります。今一つあります。それは目の血液循環をいかに順調に保つかということです。この二つは、目の健康に限らず、ほとんどの病気の予防と改善を図る上でも欠かせないものとなります。

 さて、私たちは生きて動くからには必ず活性酸素が発生しますから、身体にはそれを無害化できるように、様々な防御手段が用意されています。
 SODやカタラーゼといった抗酸化酵素を体内に用意していることもその一つですが、これは加齢とともに減っていきます。そのため、年とともに減少していく抗酸化力を補うべく抗酸化作用のあるものを外部から補給してやらなければなりません。
 例えば、日常口にする食べ物には多くの抗酸化物質が含まれ、それを食べることによって、体内に摂り込まれ、抗酸化作用を発揮してくれます。
 食べ物の中で抗酸化作用の非常に強力なものの一つにクコの実がありますが、じつはこれは目にもとても良い食品として有名なものなのです。

 白内障や加齢黄斑変性症や目の疲れといった眼疾患に用いられる漢方の代表薬に杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)というのがありますが、これの主成分が杞枸子、つまりクコの実なのです。他に菊花や山薯(やまいも)、地黄などが配合されています。ただ、胃の弱い人には使えないなど、誰にでも使えるものではないところが難点です。
 その点、良質なサプリメント(これも現実には少ないのですが)の方が誰にでも使え、かつ効果も高いところがあります。

 目のサプリメントといえばブルーベリーをあげる人が多いと思いますが、クコの実もブルーベリーと同じベリー属に属す植物で、同じような働きがあるとみられています。
 サプリメントに使うブルーベリーは、実際は栽培種であるブルーベリーではなく、野生種であるビルベリーを用いています。野生種の方が有効成分であるアントシアニンの含有量が10~14倍も高いことによります。

 ところで、モノが見えるのは外から入ってきた光が角膜→水晶体→硝子体を通過して網膜に像を結び、これが電気信号として視神経を通して脳に伝達され、モノと理解されることによります。この網膜には光に反応する細胞があり、細胞内のロドプシンという色素体が光に刺激され、分解・再合成をくり返し行うことによって、光の情報がシグナル化して脳に伝わる仕組みになっています。
 アントシアニンという色素は、このロドプシンの再合成を活性化させる働きがあるといわれています。テレビを観たり、本を読んだり、長時間パソコンの画面を見続けると、目がチカチカしたり、目の前が霞んで見えたりすることがないでしょうか。これはロドプシンの再合成がうまくいかないために生ずる現象と考えられます。こういう時こそ、アントシアニンを多く含んだビルベリーとか紫イモ、カシスなどを利用されるとよいでしょう。

 アントシアニンの働きはロドプシンの活性化だけではなく、毛細血管の保護、強化作用、抗炎症作用、循環改善作用、抗潰瘍作用があり、もちろんのこと抗酸化作用も強力なのです。こうした多面的な働きがあるからこそ、目のサプリメントの主剤としてビルベリーが使われているわけです。

 繰り返しになりますが、目は光を受けて、それを体内で唯一の透明な組織である水晶体、硝子体を経て網膜に像を結ぶわけですから、そこでは活性酸素の発生がかなりみられることになります。そこで、身体は活性酸素に対抗する手段として角膜、硝子体や網膜にルテイン、ゼアキサンチンというカロテノイドの仲間を集めています。
 私たちの目は光の中でも高いエネルギーをもつ青色光にもっとも弱いとされていますが、じつは、ルテイン、ゼアキサンチンはこの青色光を吸収し、酸化を阻止する働きがあるのです。人間の目にはルテイン、ゼアキサンチン以外のカロテノイドは存在しないそうですから、なおさらのことルテイン、ゼアキサンチンの重要度は増しています。

 ところで、ルテイン、ゼアキサンチンは黄色のカロテノイドですが、網膜上で光を直接受ける部分は黄斑部と呼ばれています。直径2ミリ、厚さ0.2ミリという小さな部分ですが、ここに多くの光受容体があり、何百個もの光を知覚する細胞があります。黄斑部という名前のとおり、ここは黄色い色をした部分で、その色はルテイン、ゼアキサンチンによる着色のせいなのです。
 私たちがモノを見ているときは目全体、とくに黄斑部は常に酸化の害にさらされています。この黄斑部が酸化の害に遭うと、細胞が破壊され、モノをきちんと捉えることができなくなります。これが黄斑変性症なのです。今では、欧米における主要な失明原因になっていますが、我が国も増加の一途をたどっています。

 黄斑変性症はまれに若年層にも発症しますが、ほとんどが高齢者にみられ、加齢黄斑変性症とも呼ばれています。
 その成り立ちは黄斑部に何らかの異変が起こることがキッカケとなって、ここに栄養を与え、修復しようとして新生血管が伸びてくることが原因しています。何らかの異変というのは活性酸素障害のことであり、黄斑部の抗酸化システムが低下することで発症すると考えられています。その原因の第一はルテイン、ゼアキサンチンが黄斑部に十分に用意されていないことによって酸化が抑えられないことです。

 ルテイン、ゼアキサンチンは多くの植物に含まれていますから、毎日の食事の中で積極的に摂ることによって加齢黄斑変性症を防いでいきたいものです。一番多く含んでいるのはケールですが、これは青汁材料としては有名でも、一般的には食べられているものではありませんから、ほうれん草や芽キャベツ、ブロッコリー、グリーンピース、葉レタスといった野菜を毎日の食事で摂っていただくと良いでしょう。

 子供はルテイン、ゼアキサンチンの貯蔵量が多いのですが、40歳を過ぎると貯蔵量が減ることが確認されています。こうしたことが加齢黄斑変性症を招いていると考えられています。
 加齢黄斑変性症は欧米人に多いのですが、最近では日本人にも増えていることを先に紹介しましたが、その原因は食の欧米化の影響が大きいと考えられます。肉類や油物、糖分の摂り過ぎで血液がドロドロして目の血管循環が妨げられることが大きな要因となっているようです。加えてタバコも影響しています。タバコの煙には活性酸素が多量に含まれますし、ビタミンCを消耗させ、血管を収縮させて血流を悪化させる働きがあるからです。

 ビタミンCの血中レベルが低い人は黄斑変性症に2~3倍かかりやすくなるといわれていますから、ビタミンCは積極的に摂られることをおすすめいたします。
 サプリメントのビタミンC剤といっても、ほとんどが合成品ですが、できれば天然100%のビタミンC剤を摂られることをおすすめします。天然のC剤にはバイオフラボノイドを含んでおり、これがなければ、コラーゲンの架橋結合はできないとされています。

 ビタミンCの働きは数多くありますが、その中の大事な働きの一つがコラーゲン合成です。しかし、ビタミンCだけでは駄目で、バイオフラボノイドが一緒でなければならないとなれば、天然以外のビタミンC剤ではあまり意味がないのではないかと思うのです。
 ビタミンCの供給源としてはお茶が有名ですが、なかでも柿の葉茶は含有量が多いことから、私はよくすすめています。

 お茶というものはアルカリ飲料として飲まれることが多いですが、そのことによって胃の弱い(胃酸が少なくて、食欲がない)人の場合、空腹時に飲むと、胃の調子が悪くなることが往々にしてあります。そこで、登場するのが柿の葉茶です。胃酸の少ない人でも安心して飲むことができますし、かえって胃の調子が良くなったという人も多いものです。ビタミンC、つまりアスコルビン酸という酸が多いことから、酸性のお茶として利用していただいています。

 ビタミンCと目に関しては今年の2月27日付けの朝刊に面白い記事が載っていました。
それは、厚生労働省研究班の疫学調査で明らかになったことで、ビタミンCを食事からしっかり摂取している人は老人性白内障になりにくいというものです。
 調査は、1990年に45~64歳だった約4万人を対象に行われ、食事の内容からビタミンCの平均摂取量を割り出した上で、2000年の時点で、老人性白内障と診断されたかどうかや、手術歴などを尋ねるなどして、摂取量とこの目の病気を患う危険性との相関関係を割り出しています。
 それによると、男性で一日あたり摂取量が最も多い集団に属していた場合は、最も少ない集団に属していた場合に比べて、発症のリスクが35%、手術を受けるに至る危険性は30%下がることが判明したそうです。女性の場合では、さらにその傾向が顕著だったそうです。

 白内障は水晶体が白く濁って、モノが見えにくくなる病気です。また、特に明るいところに出たとき、まぶしく感じるという特徴もあります。
 本来、水晶体には血管も神経も来ておらず、透明な組織なのですが、それが濁ると、眼内に侵入してきた光が乱反射してまぶしく感じるわけです。水晶体が濁る原因もまた活性酸素なのです。
 水晶体にはビタミンCやグルタチオンという抗酸化作用の強い物質が含まれていて、活性酸素による白濁を防いでいます。ところが、白内障の人では、ビタミンCの濃度が非常に低くなっていたり、なかには消失していることさえあるようです。ビタミンC、それも天然のビタミンCを摂ることは目の健康を考える上で欠かせないことがわかりますね。

 ところで、ビタミンCは抗酸化物質の代表ですが、抗酸化物質の対象となる活性酸素は大食とも関係しています。
 食べものを消化する過程では活性酸素の発生を伴いますから、小食に比べれば大食いは大量の活性酸素の発生にもつながるわけです。
 ここに人間の老人性白内障によく似た病変を引き起こすようにつくられたエモリーマウスを使って行った実験があります。結果は、食事量を20%減らしたグループでは通常どおりの量を与えたグループに比べて、老人性白内障によく似た病変の発症が半分以下に抑えられたそうです。
 「腹八分目に医者いらず」の格言は加齢に伴う眼疾患にも適応するのです。

 最後に血液循環の改善方法を紹介しておきたいと思います。
 ドライアイをはじめとして、白内障や緑内障の人の眼底を診ると、血液がスムーズに流れていないことが確認されるそうです。
 そこで目の病気や症状に対して、眼窩(がんか)のまわりの骨を指で押して血行を促す方法がすすめられています。ここで注意すべきは、絶対に眼球そのものを押してはいけないということです。
 骨のふちを軽いタッチで、上側は親指の腹で、下側は人差し指の腹で刺激します。目頭から目尻にかけて、目の周囲を少しずつなぞるようにして、5秒ほど押して、パッと離す運動をくり返します。この運動をお昼の適当な時間と、夜寝る前の2回行います。
 押すことで毛細血管の血液が周囲へ押し出され、離すことで、そこにまわりから血液が流れ込んでくることによって血液の流れを改善していくわけです。

 目の血液循環については首筋のコリもかなり関わっています。首筋といっても特に中央部、それも右目が調子悪い時は右首筋中央部、左目が悪い場合は左首筋中央部が非常にコッていることが多いのです。そのコリをゆるめるには、例えば右首筋がコッていれば、その部分をマッサージし、体も右足の方へ曲げ、体軸を右へ戻す体操をします。さらに右腰部にキネシオテープなどを貼ると良いでしょう。背筋のコリが肩のコリになり、首のコリにつながっているからです。その原因は体重のかけ方の偏り、姿勢に問題があるのです。さらにいえば心のクセが姿勢を歪めているのだと思います。

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