だるまさん(達磨)
「方丈さん、こんにちは」
「はい、太郎くん、こんにちは。今日はどこ行ってきたんだい」
「うん、友だちと公園で遊んでいたんだ。『だるまさんがころんだ』って、方丈さん、知ってる?」
「知ってるよ。『だ~るまさんが、こ~ろ~んだ』だろ」
「方丈さんも、子どものころ、遊んだ?」
「うん、よくやったぞ」
「そうなんだ、へ~」
「太郎くん、だるまさんって、何だか知っているかい?」
「だるまさん、知ってるよ。赤くて、丸い、顔の大きな人形でしょ。うちにもあるよ」
「そっか、太郎くんの家にもあるか」
「うん」
「でも、知っているかい? そのだるまさんは、むかし、本当にいた人で、お坊さんだったんだぞ」
「え~! あんな姿をしていたの!?」
「いやいや、まさか、人間だからな。でも、まあ半分あたっているかな?」
「うそ~? あんな丸かったの」
「あのな、だるまさんというのは、インド人なんだよ。達磨大師と言って、インドからな、禅の教えを中国に伝えた、偉いお坊さんなんだ」
「へぇ~、インド人」
「そうそう。しかもインドの王子さまだったんだぞ」
「王子様??」
「そう、香至国(こうしこく)の第三王子だったんだ。お父さんがこの国の王様というわけだ」
「ふう~ん」
最高の宝物
「王様は、仏教の熱心な信者さんだったんだけど、ある時、般若多羅尊者(はんにゃたら・そんじゃ)という偉いお坊さんに供養しようと、宝の珠を献上したんだ。そしたらな、その尊者が、王様の子ども達、つまり王子さまたちに、この珠を見せながら、質問したんだよ。『この珠は、完璧なものだ。これを超えるものはあるだろうか?』と。そしたら、長男と次男が、こう答えたんだ。『この珠は、最高の中の最高です。これを超えるものはありません』と」
「そんなすごい宝物なの? じゃあ、だるまさんは何て答えたの?」
「三男のだるまさんは、『最高の宝物は、仏さまの教えです。最高の宝物は、智恵です。最高の宝物は光です』と答えたんだ」
「さすが、だるまさん。かっこいい!」
「そうだな、だるまさんの答えには、この尊者も感心したらしいんだ。そして、これがきっかけとなって、だるまさんは尊者の弟子となったんだよ」
「それで、それで?」
武帝と達磨
「だるまさんは、インドで仏教を広めるために活躍したんだけど、師匠の尊者が死ぬとき、中国にも仏教を伝えるようにという遺言を伝えられたんだ。それで中国にわたって、今度は、中国で仏教を広めていったんだ」
「だるまさん、中国ではどうしたの?」
「だるまさんが中国に行くと、仏教の本場インドから、偉いお坊さんが来たというので、梁という国の王様だった武帝から、教えを説いてもらうために呼ばれたんだよ。そして武帝は、だるまさんが来ると、『私は、これまでたくさんお寺もつくりました。たくさんのお経も写しました。たくさんの人も出家させてきました。こうして仏教に尽くしてきたことは、どんな功徳があるのでしょうか?』と訪ねたんだよ」
「武帝っていう王様は、すごいんだね」
「ところが、だるまさんは、武帝に向かって、『何も功徳は無い』と答えるんだよ」
「そうなの~?」
9年間の坐禅修行
「だるまさんが言うには、『そうした行いは、まだ現世の迷いの中にある行いです。大切なのは、何ものにも、とらわれないことです』ということんだ。武帝は、どうも、だるまさんの言うことが理解できなかったらしいんだよ。それで、結局、武帝のところから去って、嵩山という山の少林寺に行って、そこで修行を続けたんだよ」
「また修行?」
「そうなんだ、だるまさんは、お寺の裏山の洞窟で、岩の壁に向かって、9年間坐禅をしたと言われているんだ」
「9年間!?」
「そう、9年も坐禅をしていたら、手も足も、萎えてしまって、腐ってしまったとも言われているんだよ。そうした伝説がもとで、太郎くんの家にもある、赤い人形をだるまさんと言うようになったんだ」
「そうなんだ!? じゃあ、うちにある、だるまさんは、坐禅をしているんだね」
「そうだよ、だから、家のだるまさんも、大切にしなくちゃ駄目だよ」
「そうだね。僕も、坐禅してみようかな?」
「おっ、太郎くん、そうか、坐禅してみるか? じゃあ早速、こっちに来なさい」
「方丈さん、ごめんなさい。やっぱり、今度にします。今日は、さようなら」
「そうか、太郎くん、残念だな。いつでも、坐禅したくなったら、遠慮無く来なさい」
「は~い」