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釈迦涅槃図(しゃかねはんず)

「おっ、太郎くん。また来たね」
「今日も、お祖母ちゃんとお墓参り」
「お祖母ちゃんは?」
「まだ、お墓にいるよ。死んだお祖父ちゃんと、また、なんか話しているみたい」
「お祖父ちゃんと仲良しだったからなあ、お祖母ちゃんは」
「家の仏壇でも、いつも何か話しかけているよ」
「そうかあ。そうだ、太郎くん、ちょっとこっちに来なさい」
「な~に?」
「いいから、こっちに。珍しいものを見せてあげる」
「なになに?」
「これだよ、これ」
「うわ~、大きい絵!」
「ただの絵じゃないぞ。釈迦涅槃図と言ってな、お釈迦さまが亡くなった時の絵なんだぞ」

インドの小さい国の王子さま

「おしゃかさま? 神さまのこと?」
「神さまじゃなくて、仏さま。でも、お釈迦さまは、2600年前のインドに、ほんとうにいた人なんだよ」
「え~、神さまじゃないんだ」
「神さまじゃまくて、仏さまだよ。仏教は、お釈迦さまが説いた尊い教えをもとに始まったんだよ」
「ふ~ん」
「もともと、お釈迦さまは、インドの小さい国の王子さまだったんだ」
「王子さま?」
「そう、王子さま。何不自由なく暮らしていたんだけど、いつも、『これでいいのかなあ』と不安を感じていたんだ」
「何で?」
「たぶん、お釈迦さまも、何で不安なのか、わからなかったんだろうな。それで、35歳の時に、お坊さんになって、修行をして、尊い教えを悟ったんだ」
「へ~」
「その後、80歳で亡くなるまで、人々に教えを伝えつづけたんだ」

沙羅双樹

「80歳、長生きなんだ、おしゃかさま」
「そうだなあ、2500年くらい前だからなあ。今は、80歳まで生きるのは普通だけど、その時の80歳は、驚くほど長生きだな。それで亡くなる時には、お釈迦さまのもとに、たくさんの弟子達が集まったんだ。これは、その時の絵なんだよ。ところで沙羅双樹(さらそうじゅ)って聞いたことがあるかい?」
「う~ん、何か聞いたことがあるなあ。なんだっけなあ」
「たぶん、平家物語だな。祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)のことわりをあらわす、ってな」
「あ、それそれ」
「これは、ちょっと難しいんだけど、つまり、沙羅双樹っていうのは、この絵のお釈迦さまの周りにある木のことなんだよ」
「8本あるね」
「そうそう、このうち、4本は緑の葉をつけているけど、右の方の4本は、枯れているだろう」
「ほんとだあ!」
「枯れているほうの4本はお釈迦さまが亡くなるのを悲しんでいることを表現していて、葉の茂っているほうはお釈迦さまの教えが永遠だということを表現しているんだよ」
「象さんや虎もいるね」
「そうそう、お釈迦さま亡くなる時には、動物たちも悲しんだんだ。それから、猫がいるのがわかるかい?」
「猫? あ、いたいた」

猫が描かれた涅槃図

「涅槃図にはね、猫は普通、描かれていないんだ。猫が描かれている涅槃図はとっても珍しいんだ」
「そうなんだ」
「京都の東福寺にも、猫が描かれた涅槃図があるんだよ。東福寺の涅槃図は、明兆(みょうちょう)っていうお坊さんが描いたんだ。この明兆さんが、絵を描いている時、途中で絵の具が無くなったんだけど、一匹の猫が現れて、明兆さんの袖を引っ張り、近くの谷に連れて行かれたそうなんだよ。そこに、赤い土があって、それを絵の具にして、絵を描き続けたんだという言い伝えが残っているんだよ」
「ふ~ん」
「明兆さんはとても感激して、それで普通は描かない猫を涅槃図に描いたんだ」
「そうなんだあ」
「ここのお寺の涅槃図に、何で猫が描かれたのかはわからないんだけど、やっぱり何かで猫が助けてくれたのかもしれないね」
「ふ~ん、やっぱり猫がいたほうがいいね。だって、猫と人間とは友だちだもんね」
「そうだな、太郎くんの家にも猫がいるもんな」
「うん、猫は大好き」
「そろそろ、お祖母ちゃんのお墓参りが終わるかな。太郎くん、じゃあ帰る前に、お釈迦さまに手を合わせて。うん、そうそう、偉いなあ」
「方丈さん、ありがとう。お祖母ちゃんに、涅槃図見たよって、自慢しようっと」
「また来なさい。今度は、美味しいお菓子を用意しておくよ」
「うん、さようなら」

寶泉寺の宝物:釈迦涅槃図
仏教のことば:お釈迦さま

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