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道元禅師(どうげんぜんじ)

「太郎くん、今日はひとりかい? どこへ行ってきたんだい?」
「方丈さん、こんにちは。友だちの家に遊びに行ってきた帰り。ゲームしてきたんだ」
「そうか。それじゃ、ちょっとお寺に寄ってお茶でも飲んでいくかい?」
「お茶は好きじゃないから、ジュースがいいな」
「こりゃ失礼失礼。太郎くんはお茶には興味は無いよなあ。じゃあ、こっちこっち、あがんなさい」
「ありがとう、方丈さん」
「太郎くん、お祖母ちゃんは元気かい?」
「うん、元気元気。でも、最近、お小遣い、くれないんだ」
「太郎くんが、もっといい子になれば、もらえるよ。何か、いたずらでもしたんじゃないかい?」
「してないよ、いい子にしてるよ」

道元禅師涅槃図(どうげんぜんじねはんず)

「そっか、ごめんごめん。今日は、太郎くんに、面白い絵を見せてあげよう。これこれ、ちょっと見てごらん」
「ん? これ? お坊さんがたくさんだね。真ん中の人が偉い人?」
「そうだよ、この真ん中にいるお坊さん、道元さんて言うんだよ」
「どーげんさん?」
「そう、どーげんさん。この絵は、道元さんが、亡くなる時の絵なんだけど、見てごらん、道元さんは、死にそうだっていうのに坐禅をしているんだよ」
「死にそうなのに、坐禅? だいじょうぶなの? 僕なんか、風邪をひいただけで、もう布団から起き上がれないのに」
「そうだな、それは太郎くんだけじゃないぞ。私も同じだ」
「方丈さんも? でもこの絵、周りに人がたくさんいるね」
「そうそう、道元さんが亡くなりそうだっていうので、道元さんの弟子が集まってきたんだよ。道元さんは、弟子がたくさんいたからね」 「へ~、じゃあ、どーげんさん、やっぱり偉い人なんだ!」

中国で仏教を学ぶ

「そうそう、道元さんというのはね、ずっとずっと昔、鎌倉時代って知っているかい?」
「ううん、なんとなく」
「その鎌倉時代のお坊さんなんだ。貴族の出身だったらしいんだよ。それがね、この世で苦しんでいるたくさんの人を救いたいと思って、お坊さんになった人なんだ」
「へ~、僕は貴族のほうがいいなあ」
「そりゃそうだな。でも道元さんは、その頃、日本仏教の中心だった比叡山でお坊さんになって、その後、中国にも行って仏教を学ぼうとするんだよ」
「中国? もちろん飛行機は無いよね」
「その通り。中国には船でしかいけないから、何日もかけて船で行くんだよ。そして中国で、自分にほんとうの仏教を教えてくれる先生をさがすんだ。でもなかなか、それが見つからないんだよ」 「せっかく中国まで行ったのにね」

海草を干すのが修行

「そうして探している時に、こんなことがあったんだ。道元さんが修行している寺の中庭で、どこかから採ってきた海草を広げて、干しているお坊さんを見かけたんだよ。けっこう歳をとっているお坊さんで、腰もまがっていて大変そうだったので、道元さんは、『何で、他の人にやってもらわないのですか?』と聞いたんだよ。そしたらそのお坊さんは、こう答えたんだ。『他の人にやってもらったら、私の修行にならない』と。それまで道元さんは、坐禅だけが修行だと思っていたんだけど、そうした作務(作業)も修行なんだということを悟ったというんだよ」
「へ~、海草を干すのが修行なんだ」
「そうなんだぞ、どんなことも、真剣に、ただそのことだけを思いながら行うことで、修行になるんだぞ。太郎くんも、お母さんのお手伝いで、掃除をしたりするだろう。それもなあ、ただイヤイヤやるんじゃなくて、集中して、ただひたすら行うことで、心がきれいになっていくんだぞ」
「え~、でも、掃除は好きじゃないなあ。お母さんがうるさいから、しょうがなくやっているだけなんだ」
「でもな、イヤイヤやると辛いけど、それをありがたい修行だと思ってやると、気分は楽になるはずだぞ」
「え~、そうかなあ。でも、方丈さんが言うなら、ちょっと気をつけて見るよ」
「そうそう、偉いぞ、太郎くん。それでなあ、道元さんは、その後、すばらしい先生に出会えて、仏教を学ぶことができたんだ。それで先生にも認められて、日本に戻ってくるんだよ」 「日本に、戻って来られたんだね」

曹洞宗(そうとうしゅう)

「そうそう、もどって来て、今度は、道元さんのもとにたくさんのお坊さんがあつまってきて弟子になったんだ。そうして道元さんが説いた教えが、曹洞宗という宗派になったんだ。そして、太郎くんのお祖父ちゃんのお墓があるこのお寺も、曹洞宗なんだよ。まあ、太郎くんも、道元さんの弟子と言ってもいいかもしれんな」
「僕も弟子?」
「そうそう。だから、もっとお母さんのお手伝いもしなきゃいけないし、勉強ももっと頑張らなくっちゃな」
「え~?」
「はははは! 冗談だよ。でも、お母さんは大切にな。またたまにはお寺に来なさい。美味しいジュース、用意しておくから」
「うん、ありがとう、方丈さん。また来るね」 「じゃあ、気をつけてな」

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