ほうほけきょ

春告鳥とも呼ばれ、春の訪れを告げる鳥だとされるウグイスの鳴き声は、「ほうほけきょ」と聞こえます。ところが私たち現代人にとって当たり前の、「ほうほけきょ」という鳴き声ですが、江戸時代より前の人たちにとっては、「ほーほき」とか「ほほ きち」「つーきひほし」などと聞こえていたようです。
平安時代の『古今和歌集』には次のような歌があります。
むめの花みにこそ来つれ鶯の
ひとくひとくといとひしもをる
この時代の人には、「人来(ひとく)人来(ひとく)」と聞こえていたのですね。動物の鳴き声というのは、時代によって、だいぶ聞こえ方が違うようです。
「ほうほけきょ」と鳴き声を表現するようになったのは、江戸時代ですが、当然そこには仏教の影響があります。つまり法華経を意識しているということです。ウグイスは別名「経読み鳥」と言いますが、それも、「法、法華経、法、法華経」とお経を読んでいるように聞こえることから呼ばれるようになったのです。
また江戸時代の狂歌に次のようなものがあります。
慈悲心も 仏法僧も 一声の ほう法華経に しくものぞなき
「慈悲心」というのは「慈悲心鳥」すなわちジュウイチ(カッコウノの仲間)、仏法僧は同じく鳥のブッポウソウ。つまりジュウイチもブッポウソウも、「ほう法華経」と鳴くウグイスにはかなわない、という歌です。
ところで法華経ですが、どうも日蓮宗の印象が強いお経ですが、他の宗派でも大切にされているお経です。曹洞宗でもよく読まれるお経で、道元禅師が書いた『正法現蔵』で最も多く引用されているのも法華経です。
ウグイスの鳴き声が「ほうほけきょ」と聞こえるのは、日本人がいかに法華経に親しみを持ち、仏教に帰依しているかを語っているように思えます。そして日本人は何百年もの間、ウグイスの鳴き声を聞きながら、尊い仏教の教えに想いを馳せてきたのでしょう。