月のうさぎ
秋の晴れた夜、夜空に浮かぶ月には、うさぎが餅をついている姿が映っています。私たちは、子供の頃、ほんとうに月が住んでいると思っていました。人類が、アポロ11号で月面着陸をして以来、月にうさぎが住んでいると思う人は少なくなりましたが、それでも美しい月を見ると、うさぎが住んでいることを信じたくなります。
仏教には、ジャータカと呼ばれる、たくさんの物語があります。その中に、月面にうさぎが映っている理由が語られています。
昔、インドに、仏の道を歩もうとする、うさぎと狐と猿がいました。三匹は、いっしょに暮らし、ともに修行をしていました。
ある時、三匹のところに、ひとりの老人がやってきます。老人は、お腹をすかしていたので、三匹は、何か食べ物を施そうと探しに行きました。
それで猿は、山でたくさんの木の実を拾い、里に出て野菜や穀物をとって、戻ってきました。狐は、川で魚をとり、人がお墓に供えたご飯をとって戻ってきました。ところが、うさぎは、あちこち探し回ったのですが、どうしても食べ物が見つかりません。うさぎは途方に暮れてしまい、悲しい気持ちで戻ってきます。
すると老人は、何も持ってこなかったうさぎを見て、「おまえは、何も施しが無いのか?」となじります。
うさぎは、せつない気持ちになり、何か、施すものはないのかと、思い悩みます。
そして、猿に、山で柴を刈ってきてくれと頼みます。狐には、その柴を焚くように頼みます。
柴に火がつき、炎が上がった時です。
うさぎは、「私を食べてください」と言って、燃え上がる炎に、身を投じたのです。
その時です。老人は、姿を変え、神々しい姿になるのです。実は老人は、帝釈天(たいしゃくてん)だったのです。そして、うさぎを炎の中から救い出し、こう言うのです。
「おまえの慈悲と布施のこころは、本当に見上げたものだ。おまえは、ほんとうに菩薩の道を歩んでいた。その尊い行いを、世界中の人々に伝えるため、おまえの姿を月に描くことにしよう」
月の表面に、うさぎの姿が映っているのは、こういうわけです。私たち人間が、うさぎの尊い行いを何時でも思い出せるようにするための標(しるし)なのです。
月を見上げて、うさぎの姿を見つけたなら、この物語を思い出していただき、慈悲のこころ、布施のこころをするきっかけにしていきたいものです。