閻魔堂・金比羅堂
本当はやさしい閻魔さま
本当はやさしい閻魔さま
お墓参りに来た泉ちゃん、そろそろ帰ろうとしてお父さんが声をかけました。
「泉ちゃん! そろそろ、帰ろう」
ところが泉ちゃんは、どうしても気になることがあるようです。
「お父さん、あそこにぶら下がっているのは何?」
「ああ、あれな。閻魔堂と金比羅堂の前にかかっているやつな。あれは数珠だよ」
「じゅず??」
「そう、数珠。お父さんが持っている、この数珠を大きくしたものさ」
「すごーい! こんなに大きいの??」
「お参りしていくか?」
「うん、していく!」
「よ~し。じゃあ、こっちのお堂が閻魔堂。閻魔さまって知っているかい?」
「うん。地獄で裁判をする人でしょう」
「そうそう、怖い人なんだけど、それだけじゃなくてね、お地蔵さんの化身だとも言われているんだ」
「お地蔵さんの? だって、お地蔵さんは優しい顔をしているよ」
「だからな、閻魔さまも本当は優しいお方なんだよ。だからここでお祀りしているんだ」
「ふ~ん。で、こっちのお堂は?」
「こっちはね、金比羅さん」
「こんぴらさん?」
「そう、こっちは金比羅堂、と言って、金比羅さんをお祭りしているんだ」
「金比羅さんって、どんな方なの?」
水の神さま
「金比羅さんは、航海の守り神なんだよ。金比羅宮という神社が、四国の香川県にあってね。『こんぴら船船、追風(おいて)に吹かれて、しゅらしゅしゅしゅ』って聞いたことあるかい?」
「しゅらしゅしゅしゅ?」
「そうか、泉ちゃんは知らないか。昔の民謡で、金比羅さんのことを歌った歌なんだ」
「へ~、面白い歌だね」
「金比羅さんは、航海の守り神だから、船と関係が深いんだ。でもね、金比羅さんは、お釈迦さまの弟子のクンビーラという人のことだとも言われているんだよ」
「へ~、お釈迦さまのお弟子さんなんだ」
「クンビーラは、お釈迦さまを守る十二神将のひとりで、子の方角、つまり北の方角をつかさどっているとされるんだ。それにね、クンビーラは、ガンジス河に住んでいるワニの化身だとも言われているんだ」
「ワニ~!?」
「そうワニ。ワニはね、日本でもインドでも、水の神さまなんだよ」
「金比羅さんはワニで、ワニは水の神さま・・・・」
「そうそう、水の神さまだからね、雨を降らしてくれるということで、お百姓さんの神さまでもあるんだ。昔はねお百姓さんはみんな田植えの時期に、雨をちゃんと降らしてください、って金比羅さんにお参りをしていたらしいよ」
「そうなんだ、いろいろ守ってくれるんだね。金比羅さん」
「それでな、この大きな数珠だけどな。これは、お参りする時に、まず手を合わせてから回すんだよ。まずは閻魔堂からやってごらん。そうそう、カラカラと引っ張って、赤い珠がぐるっとひと回りして、目の前に来るまで回してごらん」
「うん」
「そうそう。今度は金比羅堂、同じように回すんだ」
「よいしょっと」
「そうそう。この大きな数珠を回すとね、お経を読んだのと同じ功徳があるんだよ。これで、閻魔さまと金比羅さまが泉ちゃんのことを守ってくれるからな」
「閻魔さま、金比羅さま、ありがとう」
「またお寺に来たら、お参りしような」
「そうする! 楽しかったよ、お父さん」