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融通

「融通」と聞くと、現代では「融通が利く人」「お金の融通をつける」といった使い方が一般的です。どこか実務的な響きをもつ言葉ですが、その語源をたどると、仏教の深い思想に行き着きます。

 「融通」とは、本来は「融け合い、通じ合う」という意味です。仏教では、すべての存在は相互に依存しあい、絶えず関係の中で成り立っていると説きます。この相互依存の世界観を「縁起(えんぎ)」と言いますが、まさに「融通無碍(ゆうずうむげ)」という言葉は、ものごとが自在に融け合い、妨げられることなく働いている真実の姿を指します。

 この「融通無碍」という思想を象徴する教えに、『華厳経(けごんきょう)』があります。華厳経では、宇宙のすべてが一つの網のように絡み合い、相互に映し合っていると説かれています。

 インドの伝説に「因陀羅(インドラ)の網」という譬えがあります。

 無数の宝珠が網目に結ばれており、その一つひとつが他のすべての宝珠を映し出しています。つまり、一つの存在の変化が、全体の響きとつながっているということです。

 ここに「融通」の根本的な意味があると言えます。自分と他者、個と全体を分け隔てることなく、互いに照らし合う世界のありようということです。それは固定的な自己や価値観にとらわれない、しなやかな生き方への示唆でもあるのです。

 この「融通」の精神が生活の知恵として花開いたのが、日本の庶民信仰における「融通尊(ゆうずうそん)」の信仰です。大阪・谷町の大念佛寺には「融通尊」という仏さまが祀られています。現在は商売繁盛や金銭の融通を祈る仏さまとして信仰されているようですが、もともとは「福を融かし合い、幸せを分かち合う」という思想に基づいています。金銭だけでなく、心の余裕や思いやりを融通し合うことが、本当の豊かさをもたらすという教えなのです。

 こんな逸話が残っています。江戸時代、大阪の商人が大念佛寺を訪れ、「商売が行き詰まっております。どうかお金の融通を」と祈ったそうです。僧は微笑み、「融通とは、心を通わすことですよ」と言い、井戸の水を汲んで手渡しました。商人はその言葉の意味を悟り、周囲の人々と協力し、互いの知恵を融通しながら立て直したと言います。やがてその商人の店はたいへん繁盛したとのことです。融通とは、金や物だけの話ではなく、「心を通わせること」そのものだったのです。

 現代社会では、合理性や効率が重視されるあまり、「融通」が軽んじられる傾向があります。だが、人と人の関係も、自然との関わりも、すべては「融け合う」ことなしには成り立たちません。意見が違う相手に耳を傾ける柔軟さ、状況に応じて形を変えながらも、根本の誠実さを失わない姿勢、それこそが、仏教が説く「融通無碍」の実践であり、現代を生きる私たちに必要な智慧ではないでしょうか。

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