地獄(じごく)
芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』を読んだことのある人は少なくないと思います。
ある日、お釈迦さまが蓮池を通して地獄をのぞくと、カンダタという男が地獄で苦しんでいました。カンダタが泥棒の罪で地獄に落ちていましたが、生前、一度だけ蜘蛛の命を助けたことがありました。お釈迦さまは、そのことを思い出して、蓮池に蜘蛛の糸を垂らしてカンダタを救おうとします。カンダタはこの蜘蛛の糸を見つけ、地獄を抜け出そうと昇り始めますが、他の罪人も糸に群がっているのを見て、「この糸は俺のものだ、降りろ」と叫んでしまいます。その瞬間、糸は切れて、カンダタは再び地獄に落ちてしまうのです。
『蜘蛛の糸』では、カンダタは泥棒をしていた報いで地獄に落ちたとされています。地獄というのは、悪いことをすれば落ちる場所です。これは仏教でもキリスト教でも共通する考え方のようです。
ただ仏教では、地獄も種類が多く、その悲惨さのバリエーションも少なくありません。
一般に八大地獄と呼ばれ、等活(とうかつ)地獄、黒縄(こくじょう)地獄、衆合(しゅごう)地獄、叫喚(きょうかん)地獄、大叫喚(だいきょうかん)地獄、焦熱(しょうねつ)地獄、大焦熱(だいしょうねつ)地獄、無間(むげん)地獄の八つの地獄があると言われています。罪の内容によって、落ちる地獄が異なるといいます。
等活地獄は、地獄に落ちた人同士が殺し合いながら、永遠に苦しみが続く地獄。黒縄地獄は、熱く焼けた鉄の地面に伏し倒され、熱く焼けた鉄の縄で縛られる地獄で、等活地獄の十倍苦しいとされています。衆合地獄は、山や岩が両側から迫ってきて押しつぶされる地獄で、黒縄地獄の十倍の苦しみがあります。
叫喚地獄は、熱湯の大釜や猛火の鉄室に入れられるという地獄で、衆合地獄の十倍苦しいとされています。大叫喚地獄は、叫喚地獄でつかわれる鍋や釜より大きなものが使われ、叫喚地獄の十倍の苦しみがあります。
焦熱地獄は、串刺しにされて、赤く熱した鉄板の上で焼かれる地獄で、大叫喚地獄の十倍の苦しみがあります。大焦熱地獄は、焦熱地獄よりさらに激しい熱で焼かれる地獄で、焦熱地獄の十倍の苦しみがあります。
無間地獄は、剣樹、刀山、湯などの苦を絶え間なく受け、これ以外の七つの地獄すべての苦をあわせたものの千倍の苦しみがあると言います。
そして生前、どんな罪を犯したのかによって、この8つの地獄のどこへ行くのかが決まるとのことです。
地獄に行くかどうかは、生きている時の行い次第です。必要以上に地獄を恐れる必要はありませんが、時々地獄のことを思い浮かべるのも、日々正しい行いを続けるための方便だと言えるでしょう。