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総持寺(そうじじ)

「方丈さん、おはよう!」
「おはよう、太郎くん。今日は早いね」
「ラジオ体操の帰り。明日で最終日なの」
「そうか、もうひと息だな」
「先週、お祖母ちゃんと一緒に、横浜のそうじじにお参りしたの」
「そうじじ? 総持寺のことか。そうか、お参りに行ってきたのか。どうだった」
「大きかった。迷子になりそうだったよ」
「そうかそうか、確かに大きいからな」
「お祖母ちゃんが言ってたけど、そうじじって、遠くから引っ越してきたんだって?」
「そうそう、だいぶ前だけどな。そもそも、総持寺は700年くらい前に開かれたんだよ」
「ななひゃくねん前?」
「そう。太郎くんは、能登半島って知っているかい?」
「のとはんとう?」
「ちょっとこの地図を見てみな。日本海側の、ちょっと飛び出たところ」
「ほんとだ、飛び出ている」
「この能登半島の外側の、ここいらへんに、総持寺はあったんだ」
「もともとは、諸嶽観音堂(もろたけかんのんどう)というお堂だったんだよ」
「もろたけ?」
「そう、諸嶽観音堂。観音さまをお祀りするお堂だったんだよ。定賢律師(じょうけん・りっし)という偉いお坊さんが守っていたんだ」
「ふ〜ん」
「ある日、定賢さんが不思議な夢を見たんだよ。夢に観音さまがあらわれて、『酒井という場所に瑩山禅師(けいざん・ぜんじ)という徳の高いお坊さんがいる。すぐに呼んで、この寺を譲りなさい』と言ったんだそうだ」
「けいざんぜんじ、この間、方丈さんが教えてくれた人だね」
「そうそう、よく覚えているな。それで定賢さんは瑩山さんに、諸嶽観音堂に来てもらうようお願いするんだ。そして瑩山さんは、こころよく受け入れて、諸嶽観音堂に入るんだよ。そしてお寺の名前を『総持寺』とし、禅の道場にしていくんだよ」
「へえ〜、夢のお告げで総持寺になったんだね」
「そうなんだよ。それ以来、曹洞宗の大本山として500年以上、能登の地で活動してきたんだけど、明治31年、今から120年くらい前のことだな、火事で建物がほとんど燃えてしまうんだ」
「え〜! 火事? 燃えちゃったの?」
「そうなんだよ。みんな、途方に暮れただろうなぁ。それで再建のため、日本中の曹洞宗寺院が協力しようとしたらしいな。でも初めは、なかなかうまくいかなかったらしいな。それで色々考えたんだろうな。能登は確かにいい場所なんだけど、布教をしていくにはちょっと不便な場所だからね。一大決心をして、能登に復興させるのではなくて、横浜で再建するということにしたんだ」
「お引っ越しだね」
「そう引っ越し。でも、家の引っ越しと違って、そりゃ大変だったと思うよ。でも横浜は、東京が近いし、全国から集まって来やすい。何より、人がたくさんいるからね。禅の道場としては、とても可能性があると考えたんだろうね」
「それで横浜に来たんだね」
「今でも福井の永平寺と横浜の総持寺は、曹洞宗の大本山として、全国からたくさんのお参りが来るんだよ。特に総持寺は横浜ということもあって、国際的な禅の道場としても有名なんだよ」
「いろんな国の人がくるんだ」
「横浜に引っ越すときには、反対する人も多かったんじゃないかと思うけど、今となっては、皆、横浜でよかったと思っているんじゃないかな。このお寺からも近いしね」
「うん、僕も行きやすいしね」
「そうそう。太郎くん、機会があったら、またお祖母ちゃんとお参りに行ってきなさい」
「うん、行ってくる。」
「お祖母ちゃんも喜ぶよ」
「うん」
「また、遊びにきなさい。気をつけてな」
「ありがとう、方丈さんもお元気で」
「太郎くんも元気でな」


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