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仁王さま(におうさま)

お寺のガードマン

「方丈さん!こんにちは。方丈さんもお掃除をするの?」
「掃除は修行だからな。太郎くんも、家でお掃除しているかい?」
「うう~ん」
「たまには、お母さんのお手伝いをしなさい。お母さん、喜ぶよ」
「うん、前にお掃除のお手伝いをしたら、お母さん、機嫌がよかったよ」
「そうだろう。ゲームばかりしてないで、たまにはお母さんを助けて上げなさい」
「ううん」
「返事は、もっと元気よく!」
「はい!」
「そうだ、いいぞ」
「方丈さん、この門の前にいる、この二人の怖い神さまは、だれなの?」
「神さま? うん、これはな、仁王さまだよ」
「におうさま?」
「そう、におうさま。仁王さまはね、お寺の門、山門の前に立って、お寺に入ろうとする悪いやつを追い払ってくれるんだよ」
「へ~、お寺のガードマンみたいだね」
「うん、ガードマンか。まあ、そんなところだな。太郎くん、ちょっとお二人の顔をよく見てみな。ちょっと違うだろう」

阿吽の呼吸

「顔? ほんとだ! こっちの仁王さんは口を開いているけど、こっちは閉じてるね」
「そうだ、さすが太郎くんだ」
「へへん」
「この口を開いている方を『阿形』、口を閉じている方を『吽型』というんだよ。太郎くん、『あー』って言ってごらん」
「あ~」
「つぎは、「うーん」って言ってごらん」
「う~ん」
「そうそう、その口のかたち。だから、『阿形』と『吽型』って言うんだよ」
「へ~!!、『あー』と『う~ん』なんだ」
「『阿吽の呼吸』って聞いたことあるかい?」
「あうんのこきゅう?」
「ふたりで、何かを一緒にする時に、言葉を交わさなくてもお互い感じていることがわかることを言うんだ」
「言葉を交わさなくても」
「そう、太郎くん、サッカーをやっているだろう。サッカーでパスを出す選手が、パスを出す相手に『今からパスを出すよ』なんて言わないだろう。でも、何となく『あっ、パスが来るな』ってわかる時は無いかい?」
「うん、たまにあるかな」
「そうそう、それが『阿吽の呼吸』だよ」
「う~ん、阿吽の呼吸かあ」
「仁王さまはね、いつもお二人で一緒にいるから、言葉を交わさなくても、お互いのことがよくわかっているんだ。だから、このお二人の仁王さまのようにお互いのことがわかることを、『阿吽の呼吸』って言うんだよ」
「そうなんだあ」

長者と仁王さま

「ひとつ、むかし話を教えてあげよう。昔な、あるところに、板東長者というお金持ちが住んでいたんだ。ある日、その長者のところに、身体のがっちりした大男が来て、『仕事をください』と頼んできたのだよ。長者は、この男の体つきなら、たくさん仕事をしてくれると思って、雇うことにしたんだ」 「ふ~ん」 「大男は、長者の見込んだとおり、とても働き者だったんだ。長者は、とてもよろこんで、ずっと働かせることにしたんだよ。それで、給料を払う時期がきたんで、『そろそろ、給料を払おうと思うが、希望はあるかね』と聞いてみたんだ。すると男は、『そろそろ稲の取り入れだから、稲をひとかつぎ頂くだけでいいです』と答えたんだ。長者は、それを聞いて、大喜びさ。だって、あんなに働いてくれたのに、たった稲のひとかつぎでいいなんて。長者は、ほんとうは何倍も払わなければいけないのだけど、このまま何も言わないで、給料をごまかしてしまおうと思ったんだよ」 「ずる~い」 「それで、秋の収穫の時が来たんだよ。大男は、『じゃあ、約束のひとかつぎの稲をいただきます』と言って、刈り取った稲を全部ひとまとめに縛り、山のようになった稲をかついで行ってしまったんだ。長者はあわてて追いかけて行ったんだけど、大男はお寺の門の前で消えてしまったんだよ。すると、門のところに、見覚えのあるワラジがかけてあったんだ。長者はハッとして、門の所にある仁王像を見てみたら、足が田んぼの土で泥だらけだったんだな」

「大男は、仁王さまだったんだ!」 「そうさ、大男は仁王さまだったんだ。仁王さまは、ケチで欲深いのを戒めるために、姿を変えて長者のところに行ったんだよ。長者もそれ以来、心を入れ替え、これまで雇っていた使用人の給料も増やして、みんなが気持ちよく働けるようにしたんだとさ」 「仁王さま、いいことするね」 「そうだな。きっと長者のところで働いていた使用人が、とても貧しかったので、助けたかったんだろうな」 「仁王さま、怖い顔だけど、やさいしんだね」 「そうだよ。だから、あんまり怖いって言わないようね」 「でも、やっぱり怖いや。夜はここに来ることできないよ」 「そうか、大きくなったら、怖くなくなるよ。また来なさい。お祖母ちゃんによろしくな」 「うん、方丈さん、さようなら」 「はい、さようなら」

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