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数珠(じゅず)

おじいちゃんの数珠

「方丈さん!!こんにちは!」
「おお、太郎くん。今日はおじいちゃんの法事だね。いつも偉いね」
「おじいちゃんのこと、本当に大好きだったんだ。よく遊んでくれたし。お母さんに怒られた時は、いつもおじいちゃんがかばってくれたんだ」
「そうかあ、優しいおじいちゃんだったからな」
「それより方丈さん、見て。今日は、数珠持ってきたんだ。おじいちゃんが使っていたものなんだって」
「さすが、おじいちゃんの数珠だなあ。いいものだねえ。この数珠、香りがするのに気づいたかい?」
「香り? ほんとうだ。いい匂いがする!」
「これは白檀という木でつくった数珠なんだよ。いい香りのする木で、よくお香に使われる木なんだ」
「へえ~」
「それとな、この数珠、珠の数はいくつなのか知っているかい?」
「ええと、ひとつ、ふたつ、みっつ・・・・・・」
「数えるのは大変だろう。答えはね、百八つなんだ」
「除夜の鐘と同じ数だね!!」
「おお、太郎君くん、すごい! よく知っているね」
「前に方丈さんが教えてくれたんだよ」
「そうだったかなあ」

煩悩が無くなるように念じて

「ええと、それで、百八つって、何の数だったっけ? その時、聞いたんだけど、忘れちゃった」
「そうそう、百八つというのは、煩悩の数だよ。煩悩って言うのはね、ちょっと難しいんだけど、まあ言ってみれば、人間の欲望とか、怒りとか、無知とか、そういうもののことなんだ。人はこの煩悩があるから、苦しい思いをしなければならないんだ」
「ふうん、苦しみのもと、みたいなもの?」
「そうそう、その通り。だからね、仏さまに礼拝するときは、この珠をひとつひとつ、こうして爪繰りながら、煩悩が無くなるように念ずるんだよ」
「じゃあ、今日のおじいちゃんの法事の時に、やってみるよ」
「それから、あそこにお堂がならんでいるだろう。閻魔堂と金比羅堂。よく見てごらん、おっきな数珠がかかっているだろう。あれも太郎くんが持ってるのと同じ、数珠なんだよ」
「へ~、あれも数珠なんだ~」
「あの数珠はね。ぐるっと回すと、お経を読んだのと同じ功徳があるんだよ。だから今日は、おうちに帰る前に、回していくといいよ」
「そうなんだあ。でも、お寺に来るといつも回しているよ。意味は知らなかったけど、なんか回すと楽しいんだ」

インドの王さまがお釈迦さまに相談したのが始まり

「うん、それでいいんだ。おじいちゃんの数珠は、いいものだから珠が百八つあるけど、使いやすいように、半分の五十四珠や、その半分の二十七珠、あとは十八珠とか二十二珠というものあるんだ。だから太郎くんの持っているものは、本格的なもんだな」
「おじいちゃんは、毎日この数珠を持って、仏壇に手をあわせていたんだって」
「そうかあ。それと数珠というものは、仏教が生まれたインドから伝わってきたものなんだ。お釈迦さまの時代にね、ある王さまがお釈迦さまに相談をしたんだ。その相談というのは、『私の国は、貧しく、病気も流行っていて、王としてとても大変です。仏の道の修行をしたいのですが、それどころではなく、困っています』というものだったんだ。するとお釈迦さまは、『それなら、無患樹(むくろじゅ)の実を百八つ用意して、それを糸でつないで、輪をつくりなさい。それをいつも身につけておいて、折に触れ仏の名前を唱えなさい。そうすれば、この国は豊かで平和になり、あなたも修行を続けることができるでしょう』と答えたんだよ。それで王さまは数珠を千個つくって、家族や家来にも持たせ、自分は肌身離さず持って、いつも仏さまの名前を唱えるようになったんだ。こうしてその国は、豊かで平和になった、という物語が伝わっていて、これが数珠の始まりだと言われているんだよ」
「へえ~、お釈迦さまが数珠を考えたんだ。すごい昔なんだよね」
「そうだな、だいたい二千六百年前ということになるかな」
「二千六百年前!? すごい昔だね」
「そうだね。さあ、そろそろ法事を始めるから、太郎くんも本堂のほうに行きなさい。みんなが待っているよ」
「うん。方丈さん! 今日は僕、数珠を持って、煩悩を無くすよ」
「そうか! 頑張りなさい。おじいちゃんも喜ぶよ」
「ありがとう。じゃあ、本堂に行ってきまーす」

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