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彼岸(ひがん)

向こう側の岸

「やあ、太郎くん。今日もよく来たね」
「方丈さん、こんにちは」
「学校は楽しいかい?」
「うん。勉強は好きじゃないけど、学校は楽しいよ」
「それは何よりだな」
「方丈さん、今度のお彼岸、お父さんの兄弟が全員来るって」
「そうか、今年は全員そろうのか。そりゃご先祖さまも喜ぶなあ」
「それでね、お彼岸って何なの?」
「う~ん、彼岸っていうのはな、簡単に言うと、春と秋に一度ずつ来る、ご先祖さまに感謝をする一週間のことを言うんだな」
「春と秋の両方とも彼岸なんだ」
「そうそう。彼岸というのは、『彼』の『岸』って書くだろう。これは、彼方(かなた)の岸、つまり川の向こう岸っていう意味なんだよ。だから彼岸に対して、此方(こちら)の岸は『此岸(しがん)』。」
「向こう岸? え~、よくわからない?」
「仏教ではな、修行を続けて『悟り』を目指すことが大切にされているんだ。太郎くんの勉強も、修行のひとつなんだぞ。それで、修行をしているこっちの世界が『此岸』、修行が終わってたどり着くあっちの世界が『彼岸』なんだよ。がんばって生きて、そしてようやく命を終える頃に『彼岸』にたどり着くというわけさ」
「そうなんだ」
「だから、『彼岸』には、亡くなったご先祖さまたちがいるんだよ。それと、お彼岸は一週間だけど、その真ん中の日は、春分の日か秋分の日だろ。この日は、どういう日だっけ?」
「う~ん、昼と夜の時間が同じ日!」
「正解! そうそう。昼と夜の時間が同じで、お日さまは真東から昇って、真西に沈むんだ」
「ふ~ん」
「極楽浄土というのはな、真西にあるって信じられているんだ。そうすると、お彼岸の日に、沈むお日さまに手をあわせると、真西に向かっていることになるから、極楽浄土に手を合わせていることになるだろう。つまり『彼岸』に手を合わせているってことさ。お彼岸が、この時期になったのは、そういう理由なんだよ」

彼岸花とおはぎ

「そうだ、太郎くん、こっちに来なさい」
「うん。あっ、彼岸花!」
「そうそう、彼岸花って、ちょうどお彼岸の時期に咲くだろう。不思議とね」
「そうだね」
「彼岸花は、曼珠沙華(マンジュシャゲ)とも言うけど、お経にも出てくる花なんだよ。『天上の赤い花』って言われていてね、お釈迦さまが菩薩たちに教えを説いている時に、天がこの花を降らせたって言われているんだ」
「ふ~ん、なんか縁起の悪いお花かと思っていた」
「いやいや、本当は、とっても縁起のいいお花なんだよ。昔はよく、田んぼのあぜ道なんかに咲いていたけどね。いまじゃ、あんまり見なくなったな。そうそう、お彼岸には、きっとお母さんが、おはぎをたくさんつくってくれるよ」

「おはぎ?」
「そうおはぎ。春の彼岸の時は、ぼた餅だけどな」
「え~、おはぎとぼた餅って違うの?」
「粒あんでつくったのがおはぎ、こしあんでつくったのがぼた餅だよ。萩って花は知っているかい?」
「うん、なんとなく」
「萩の咲く秋に食べるのがおはぎ、それで牡丹の咲く春に食べるのが牡丹餅、つまりぼた餅ってわけさ」
「へ~、すご~い。そうなんだ~」
「面白いだろ」
「うん。お彼岸が楽しみになっちゃった」
「おはぎばっかり食べてちゃ駄目だぞ。ちゃんとお墓参りをするようにな」
「は~い。ちゃんとお墓参りに来るよ」
「えらいな。また来たら、いろいろ教えてあげるよ」
「ありがとう、方丈さん」

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