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位牌(いはい)

「方丈さん、とてもすばらしい四十九日の法要で、弟も感謝していると思います。ありがとうございます」
「いや、弟さん若いのに、大変でしたな」
「遺された義妹(いもうと)が、かわいそうで。子どもも小さいですから。うちの太郎も、弟にはよくなついていたんですよ」
「そうか、太郎くん。叔父さんには、よく遊んでもらったのか?」
「うん、叔父さんと遊ぶと面白かったんだ。うちのお父さんが、真面目でつまんないでしょ。叔父さんは、とても楽しい人だったんだよ」
「お父さんは、真面目でつまんないか? こりゃ、お父さんも、面目丸つぶれだな」

位牌って何?

「方丈さん、さっきの位牌って、何なの? あそこに、叔父さんが入っているの?」
「うう~ん、さっき、法要で魂を入れたから、叔父さんが入っていると言えばそう言えなくもないな。というよりはな、そう、お位牌は、言ってみれば窓みたいなもので、位牌を通して、あの世にいる叔父さんとお話しができるということなんだよ。窓をはさんで、つまり位牌をはさんで、叔父さんのいるあの世とつながっているということなんだよ」
「そっか、窓か。でもやっぱり、大切なものなんだね」
「そうだよ。去年、大きな地震があって、津波の被害にあったところがあったろう。地震直後、『津波が来る!』と、たくさんの人が逃げたんだけど、その時に、お位牌を家から持ち出して逃げた人がけっこう多かったんだよ。他にも大切なものはたくさんあったと思うけど、そういった人にとっては、一番大切なものがお位牌だったんだよ」
「位牌を持って逃げたの?」
「そう。お位牌は、残された家族にとっては、亡くなった人そのものなのかもしれないね」
「じゃあ、うちのお祖母ちゃんも、何かの時には、お祖父ちゃんの位牌を持って逃げるのかもね」
「それと、これを見てごらん。この白木でできたお位牌はね、お葬式の時から今日まで叔父さんの家にあったんだよ。さっきの黒いお位牌は、本位牌と言って、今日から叔父さんの家に安置することになるんだよ」
「へえ~」
「今日の法要は四十九日って言うのだけど、叔父さんの霊魂は、今日までは、行き先が決まらないで漂っているんだけど、今日の法要で正式にあの世に旅立つことになるんだ。それで今日から、お位牌も仮のものではなく、漆を塗った本位牌を安置すると言うことなのさ。四十九日法要が大切なのは、そういう理由なんだよ」

仏さまの弟子になった時につける「戒名」

「じゃあ方丈さん。ここに書いてあるこの難しい漢字は何なの?」
「これは戒名というのさ。聞いたこと無いかい?」
「うん、聞いたことはあるけど、よくわからない」
「戒名というのはね、正式に仏さまの弟子になった時につける名前なんだよ。だから生きているうちに、本当は付けるものなんだ。だから私も、戒名を持っているんだよ」
「方丈さん、戒名があるの?」
「そうだよ。生きているうちにいただくのが正式。でも、仏教の勉強をちゃんとするのはたいへんだし、みんな忙しいということもあって、生きているうちに、正式に仏教徒になる儀式を受けるのは、なかなかできないんだ。だから、お葬式の時に戒名を付けて、仏さまの弟子としてあの世に送ってあげると言うことなんだよ」
「そうなんだ~」
「太郎くんも、そろそろ仏さまの弟子になって、戒名をいただくかい?」
「ひ~、いいです、いいです。美味しいものとか食べられなくなりそうだし。勘弁してください、方丈さん」
「はははは! そのうち大人になって、気が変わったら、いつでも言いなさい。待ってるよ」
「待たなくていいよ~~」

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