1. HOME
  2. 連載記事
  3. 仏教のことば
  4. 観音菩薩(かんのんぼさつ)

観音菩薩(かんのんぼさつ)

画像(千手観音二十八部衆像)提供:東京国立博物館

慈悲深い観音さま

「太郎くん、またお参りかい? お祖父ちゃんとはお話しできたかい?」
「うん、今日はね、学校の成績が上がったから、お墓に報告に来たんだ。お祖母ちゃんがね、どうしてもお祖父ちゃんに伝えたいって」
「そうか、偉いぞ。がんばったんだな、太郎くん」
「なんか僕より、お祖母ちゃんのほうが喜んじゃって」
「いいんだよ、これからもお祖母ちゃんを喜ばせておやり」
「うん、ところで方丈さん。お祖母ちゃんがいつもあそこでお参りするでしょ。あそこにはどんな仏さまがいるの?」
「ああ、観音堂かい。あそこには、観音さまがいるんだよ」
「観音さま? 女の仏さまの観音さま?」
「女の仏さま? ううん、観音さまは女の仏さまってわけじゃないんだけどな。確かにお姿は女性っぽいけど、ほんとうは男性なんだよ。観音さまには、男性とか女性とか、そういう性別は無いっていう説もあるけどね。ただ、とても慈悲深い、優しいお顔をしているから、そういうところは女性的だな」
「ふうん、女の仏さまじゃないんだ~。不思議~」
「観音さまは、正式には観世音菩薩って言って、『観』は見るという意味、『世音』は世の中の音声、つまり人々の救いを求める声という意味だから、我々の救いを求める声を見て(聞いて)くださるお方ということなんだ。我々の苦しみをわかってくださって、我々を救ってくださるお方なんだよ」
「ありがたいお方なんだね」

33の姿を持つ観音さま

「『法華経』ってお経に観音さまのことが書いてあるんだけど、観音さまは33の姿に変身することができるんだよ。これはね、救おうとする人の状況にあわせて、それにふさわしい姿に変わることができるということなんだ。子どもを救う時、貧しい人を救う時、裕福な人を救う時、それぞれにふさわしい姿になって救ってくださるんだよ」
「33の姿に変身!? すごいや」
「板東三十三カ所とか西国三十三カ所って聞いたことあるかい?」
「うん、テレビで見たことあるよ」
「それはね、観音さまに縁の深い33のお寺をお参りする巡礼なんだけど、33カ所というのは、この観音さまが変身する33の姿にちなんでいるだよ」 「そっか~」
「ここの観音堂はね、もともと江戸時代に建てられたんだけど、その時の住職さんのお母さんがね、西国霊場の巡礼を果たせなかったということで、そのお母さんの願いを叶えるために建てたんだよ。そしてその後も、地域の人が熱心に信仰したんで、今でもこのお寺にあるんだよ」
「すごい親孝行の住職さんだったんだね」

わらしべ長者と観音さま

「ところで太郎くん、わらしべ長者の話ってしっているかい?」
「知ってるよ!」
「貧乏な男が、わらしべを拾って、それを次々にいろんなものと交換して、ついには、立派なお屋敷を手に入れるというお話し。このわらしべ長者になった男は、ただ運がいいだけで、努力せずにお金持ちになったいうイメージがあるんだけど、それだけじゃないんだ」
「ふうん、違うの? 何だか運がよくて、うらやましいな、僕もそうなりたいな、と思ったんだけどな」
「わらしべを拾う前にその男は、奈良の長谷寺というところに行って、何日も熱心にお参りを続けたんだ。その長谷寺の仏さんが、観音さまなんだ。お参りをして21日目に、その男は観音さまからお告げを受けるんだよ。それが『お前はほんとうに熱心にお参りしているな。だからお前に授けるものがある。今日、寺を出て最初につかんだものが、私からの授けものだ』ということなんだ。それでお寺を出たら、石につまづいて転ぶんだけど、転んだ時に偶然手につかんだのが、わらしべなんだ」
「へ~」
「でもね、普通はわらしべなんか拾ったって、別にありがたくもないだろう。でもこの男は、観音さまにいただいたものだからと、大切にしようと考えたんだよ」
「観音さまを信じていたからなの?」
「そうそう。観音さまご利益でわらしべを得ることができて、長者になることができたのも観音さまの功徳というわけなんだ」
「へ~、観音さまのおかげなんだ。わらしべ長者になれたのは」
「そうだよ。観音さまは、ほんとうにありがいお方なんだよ」
「じゃあ、お祖母ちゃんも、いつかわらしべ長者になれるね」
「そうだな。でもお祖母ちゃんは、たぶんお金なんか欲しく無いと思うよ。きっとね、太郎くんが元気で大きくなってくれることをお願いしてるんじゃないかな」
「そっか~、僕、元気だけが取り柄だから大丈夫だよ」
「それから、太郎くんがもっと勉強をするようにお願いしているかも知れないよ」
「へへっ、もっと勉強をするようにかあ。それはお願いしないように、お祖母ちゃんに頼んでおこうっと。もっと遊びたいもん」
「太郎くんらしいな。まあ、いいだろう。とにかく、元気が何よりだからね」

関連記事