1. HOME
  2. 連載記事
  3. 仏教のことば
  4. お香(おこう)

お香(おこう)

「方丈さ~ん! この間は、ありがとう」
「おお、太郎くん、お祖父ちゃんのお墓参りか。今日は一人かい?」
「ううん、お父さんは今、お墓のお掃除。お祖母ちゃんとお母さんは後から来るんだ」
「そうか、いつも太郎くんは偉いな。持っているのは、お墓参りセットかい?」
「そうそう、線香でしょ、ライターでしょ、お花でしょ・・・。ねえ方丈さん。線香って何? なんで線香を焚くの?」
「線香かい? 線香を仏さまに供えるのは、このいい香りを、仏さまに味わってもらうということなんだよ」
「味わってもらう? でも僕、ぜんぜんいい匂いに感じないや」
「太郎くんも、そのうちにお香の香りの良さがわかってくるよ。それから、お墓参りの時のお香は、そんなに高いお香じゃないけど、だぶんお祖母ちゃんがお仏壇に供えているのは、いい香りがするんじゃないかな?」
「ふ~ん? お仏壇のお香は違うんだ? 今度、気をつけてみるよ」
「きっと、いい香りだよ。そもそもお香というのはね、仏教が生まれたインドのものだったんだ。インドは暑いだろう。だからね、食べ物が腐ったニオイや、人間や動物の汗のニオイで、部屋とか服とかが、すぐに臭くなっちゃうんだ。だから、その臭いを消すというのが、お香の始まりなんだ」

「ふ~ん」
「それが、だんだんいい香りのするお香をつくるようになって、お香の香りを楽しむようになってきたんだよ。日本に入ってきたのは、聖徳太子の時代だってい言われているんだ。それで太郎くん、お香って、何でできていると思うかい?」
「え~~? ぜんぜんわかんないよ」
「それはね、お香によって違うんだけど、だいたい木が多いかな。そういう木のことを香木っていうんだよ。ただ日本でとれる木はほとんど無いんだ。有名なのは白檀(びゃくだん)と沈香(じんこう)っていう木でね。白檀はインドのあたり、沈香は東南アジアで採れるんだ。そういえば太郎くん、この間、お彼岸の法要に参加したろう。その時、前のほうに出てもらって、木の粉みたいなものを、こうやって、燃えている炭の上に乗せたのを覚えているかい?」
「うん、順番にやったやつね」
「あれもお香なんだよ」
「へぇ~、そうなの~」

「いま太郎くんが手に持っているのが線香、で、あの時の粉みたいなものが抹香っていうんだ。抹香はね、香木を細かく刻んだもので、線香は更に細かくしたものを松脂や糊で練って、あの形に加工しているんだよ」
「両方、お香なんだね」
「ちょっと、その線香を1本、もらえるかな? それとライターも。こうやって線香に火をつけるだろう。で、この火を消すんだけど、息でふ~ってやっちゃいけないんだ。だから、こうやって、もう一方の手で仰いで、火を消さなきゃいけないんだよ」
「え~、なんで?」
「お香は、仏さまへのお供え物だろう。人間の息っていうのは、いろんなもので汚れていて、その息をかけてからお供えするのは、仏さまに失礼だからなんだよ。仰いでうまく消せなければ、こうやって振ってもいいよ。やってごらん」
「火をつけて。手で仰いで。う~ん、消せた! ちょっと難しいね」
「だいじょうぶ、上手だよ、太郎くん」
「そうかなあ?」
「あとは難しいこと考えないで、手を合わせて、仏さまとご先祖さまのことを思うようにすればいいんだよ」 「うん、わかった」
「そろそろ、お祖母ちゃんとお母さんも来るんじゃない? お墓に行って、お掃除のお手伝いをしてきなさい」 「うん、方丈さん、ありがとう。またね」
「うん、太郎くん。また来るんだよ」
「は~い!」

関連記事