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四十九日(しじゅうくにち)

画像提供:東京国立博物館

「太郎くん、太郎くん、いらっしゃい。今日はなんだい」
「実は先週、おばさんの四十九日で、大阪のおじさんの家に行ってきたの。それでね、お母さんに『四十九日って何?』って聞いたら、『わからないから、また方丈さんのところに行っておいで』と言われて、また聞きに来たんです」
「お母さんもわからないか。まあ、無理もないな。それより、大阪のおばさんは亡くなったのかい。子どもの時は、よくお寺に遊びにきたんだけどな。お父さんは、悲しんでるだろう。お父さんと大阪のおばさんは、ほんとうに仲のいい兄弟だったからな。よし、四十九日のことを教える前に、本堂に来なさい。いっしょにおばさんにお経をあげよう」 「うん、方丈さん、ありがとう」
そういって、方丈さんは太郎くんをつれて本堂に行きました。
ひととおりお経を読むと、太郎くんに向かって、お話しを始めました。

初七日と四十九日

「えらいな、ちゃんと手をあわせて。とにかくそんなに緊張しないで、楽にしなさい」
「うん」
「四十九日だっけな。四十九日は、人が亡くなってから、49日目に行う法要のことを言うんだ。まあ、このくらいは、言わなくてもわかっているか?」
「うん、知ってる」
「49日目と行っても、亡くなった日を1日目として数えるから、普通の感覚では48日目のことだな」
「ふ~ん、そうなの」
「初七日っていうのはやったかい?」
「それは、お葬式の日にいっしょにやった」
「そうかい。最近、お葬式の日にやる人も多いけど、亡くなって7日目にやるのがほんとうなんだ。遠くから来る親戚なんかに遠慮して、いっしょにやるみたいだけど、やっぱりちゃんと7日目にやったほうがいいんだけどな。なんか省略しているみたいで、亡くなった人がかわいそうだろう」 「そうかあ」
「人が亡くなると、お葬式をやるけど、その後7日おきに法要をやるんだよ。7日目、14日目、21日目、28日目、35日目、42日目、そして49日目、という風にね。7日ごとに供養すれば、亡くなった人が、その功徳を受け取れるってお経に書いてあるのさ。だから『成仏できるように』って、供養をするんだ」 「成仏って?」
「う~ん。仏さまになっていただく、という感じかな。安らかになっていただく、という風に考えてもいいかなあ」
「ふうん。僕も亡くなった人には安らかになって欲しいな」

閻魔さまの話

「それでな、ちょっと難しい話になるけどいいかな」
「うん、難しいのはちょっと苦手だけど」
「わかった。できるだけ、わかりやすくなるようにするから。四十九日までの49日間、人の魂は、この世とあの世の間、中陰(ちゅういん)という場所にいるんだ。あの世に行く途中の場所と行ってもいい。三途の川って聞いたことある?」
「うん、知ってる」
「三途の川もそこにあるんだよ」
「え~、そうなの~」
「その中陰で、閻魔(えんま)大王を中心とした閻魔十王[閻魔大王、秦広王(しんこうおう)、初江王(しょこうおう)、宋帝王(そうていおう)、五官王(ごかんおう)、変成王(へんじょうおう)、泰山王(たいざんおう)、平等王(びょうどうおう)、都市王(としおう)、五道転輪王(ごどうてんりんおう)]が、生きていた時にどんなことをやったか、悪いことはしていないか、いい行いをたくさんやったか、ということを取り調べるんだよ」
「へえ~、恐~い」
「その間に、この世の私たちが供養をすると、その供養の功徳が亡くなった人に届いて、閻魔さまたちが、いい人だったと判断するんだ。だから四十九日の間、7日ごとに供養することが大切なんだよ」
「そうなんだあ」

大切な人と向き合う機会

「それとな、7日ごとに法要をしていくとな。手を合わせて、仏壇の前で亡くなった人を思い出す機会が多いだろう。大切な人を亡くすというのは、とても辛いことだし、それを思い出すこともとても辛いことだ。でもな、思い出して、悲しむということは、人にとってとても大切なことなんだ」
「どうして?」
「人はな、悲しい時に、我慢しないで悲しむことが大切なんだ。そうしないと、悲しさがたまっちゃって、もっともっと悲しくなっちゃんだ。ちゃんと悲しんでないと、精神的に不安定になる人が多いんだよ。だからな、太郎くんも悲しい時は我慢しないで、泣いていいんだ」
「泣くのはかっこわるいから、いやだなあ」
「泣きたい時に、泣くのは、かっこわるくないぞ」
「そうなの?」
「そうさ。それで、7日ごとの法要というのは、その悲しさと向き合う時間でもあるんだ。だから大切なんだ。本格的にやるのは、特に大切な初七日と四十九日だけでいいけど、その他の日も、家族そろって仏壇の前で手をあわせるとかは、やったほうがいいんだけどなあ」
「ふうん。亡くなってしまった人のためだけじゃなくて、残された僕たちのためでもあるんだ」
「そうだよ太郎くん、その通り。でもやっぱり大切なのは、亡くなった人を思う気持ち、偲ぶ気持ちなんだ。だから、おばさんの四十九日では、おばさんのことを、思い出して、気持ちをこめることが大切なんだよ。どうだったかい?」
「うん、ちゃんと思い出していたよ。だって、おばさんは、ほんとうにやさしい人だったんだ」
「そうか、いい子だ。今日は、ここでもう一回、仏さまに手を合わせよう。おばさんのことを思い出しながらね」
「うん」
そして太郎くんは、方丈さんといっしょに、本堂の仏さまに手をあわせました。

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