ちくしょう

悔しい時や、相手をののしる時に、「ちくしょう」「こんちくしょう」といった言葉を使うことがあります。もともとは、「この畜生」という言葉から転じた言葉ですが、畜生というのは、一般に動物のことを言います。さらに仏教では、生前に不平が多く、感謝の気持ちを持たなかった人が、生まれ変わる存在だとされています。
仏教には輪廻という考え方があり、人は死んだら、別の存在となって生まれ変わり、それを繰り返すとされています。
人間が輪廻して生まれ変わる六つの世界があります。
天道(てんどう)、人間道(にんげんどう)、修羅道(しゅらどう)、畜生道(ちくしょうどう)、餓鬼道(がきどう)、地獄道(じごくどう)です。
その四番目にあるのが、畜生道です。畜生道は、鳥や獣、虫といった畜生の世界です。畜生道に生まれ変わると、倫理や道徳をわきまえず、本能的な欲望のままに生きていくことになります。目先のことにとらわれて、苦しみが続くとされています。
「こんちくしょう」は、相手に対して、こうした畜生のくせに、というとい意味を込めて使う言葉です。もちろんあまりいい言葉ではないので、できるだけ「こんちくしょう」という言葉は使わないようにしましょう。
ちなみに輪廻して生まれ変わる六つの世界を六道と言います。
天道は、天人が住む世界です。天人は空を飛ぶことができ、とても楽しい時間を過ごすことのできる世界ですが、それでも迷いや苦しみからは逃れられないとされています。
人間道は、もちろん現在私たちが住む世界です。生老病死の苦しみがあり、四苦八苦に悩まされます。
修羅道は、阿修羅が住み、争いごとの絶えない世界です。常に怒りを持っている人が生まれ変わる場所だと言われています。
餓鬼道は、飢えた鬼の世界です。この世界では、腹がふくれた鬼の形になって、飢えに苦しむとされています。食べ物や飲み物を食べようとすると、それがすぐに燃えてしまって、いつまでたっても食べることができないと言います。欲深い人が生まれる場所だとされています。
そして地獄道は、罪を犯した人が生まれ変わる世界です。ここで受ける苦しみは計り知れないとされていて、なかなか抜け出すこともできないとされています。
仏教では、人が死ぬと、こうした六道に輪廻し、それを繰り返すと考えられています。
そして六道はすべて、苦しみの世界です。天道ですら、苦しみから逃れられない世界です。
実は仏教は、こうした輪廻から抜け出すことをめざした宗教です。
欲望を捨て、悟りを得ることで、人は涅槃に達するとされています。涅槃というのは、この六道から抜け出すことでもあります。
「こんちくしょう」なんて言葉を使っていたら、六道からは抜け出せないかもしれませんね。