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仏壇(ぶつだん)

「方丈さん、今日はありがとうございました。三回忌で、すばらしいお経をあげていただいて、父も感謝していると思います」
「いやいや、こうやってお祖父ちゃんのために、家族が集まることが、一番嬉しいんじゃないかな。賑やかなことが好きな人だったしねえ」
「そうですね」

「太郎くんも、今日はちゃんとお経をあげていたな。ちゃんと読めるんだな。えらいぞ」
「うん、時々、お祖母ちゃんと一緒に、仏壇の前でお経あげているからね」
「ほう、だからお経を読めるのか。とてもいいことだぞ。ところでこの仏壇、太郎くんのお父さんが生まれた時に買ったものだって知っていたかい?」
「ええっ、お父さんが生まれた時?? そんなに古いの?」
「そうだよ、この仏壇は、ほんとうにいい仏壇でね。黒檀(こくたん)という木でできているんだよ。堅くて重い木でね。黒檀の仏壇は、百年以上持つって言われているのだよ」
「百年以上!」
「そうさ。だからね、太郎くんが大人になっても、この仏壇はほとんど傷んでないはずさ。いつかは、太郎くんがこの仏壇を護るんだよ」 「そうなんだ。じゃあ、これ僕の仏壇だね」
「そうそう、太郎くんの仏壇。大切にするんだよ」
「わかったよ、方丈さん」

「太郎くんは、この仏壇の中を見たことはあるかい?」
「うん、あるけど・・・」
「中にあるものが何か知っているかい?」
「ううん、わからない」
「ちょっと、こっちに来なさい。ほら、この位牌がお祖父ちゃん。こっちがお祖父ちゃんのお父さんとお母さんだ」
「ふう~ん」
「それでな、ここに書いてあるのが、お祖父ちゃんの名前」
「違うよ、お祖父ちゃんの名前はそんなんじゃないよ」
「いやいや、これはな、戒名と言ってな。お祖父ちゃんが亡くなった時につけた名前なんだ」
「戒名?」
「まあ、あの世に行った時に、仏教徒だってことを証明する名前っていったらいいかな。まあ、仏さまのお弟子さんとしての名前だよ」
「ふ~ん」
「それからな、ほら、これこれ」
「仏さま!」
「そうそう、仏さま。この仏さまのお名前は、釈迦牟尼佛(しゃかむにぶつ)。お釈迦さまって知っているだろう」
「花まつりの時に、甘茶をかける方だよね」

「つまりな、仏壇にはな、お釈迦さまがいらっしゃって、お祖父ちゃんたちは、そのお釈迦さまのもとにいらっしゃるということなのさ」
「ふ~ん、お祖父ちゃん、お釈迦さまといっしょにいるんだ」
「そうそう、だからな、今はとても安らかに過ごしているんだよ。今度からな、仏壇で手を合わせる時にはな、お祖父ちゃんのことだけじゃなく、お釈迦さまのことも想って手を合わせるんだよ」
「うん、わかったよ。お釈迦さまだね」
「お祖父ちゃんも忘れないようにな」
「忘れるわけないじゃん」
「そうだよな。太郎くんの幸せを一番祈っているのは、間違いなくお祖父ちゃんだぞ。太郎くんのことを、いつも見ていると思うな」
「そうなんだ」
「太郎くんが、無事成長することも楽しみにしているはずだしな。そういや、成績表はお祖父ちゃんに見せてるかい?」
「うん。学校から持って帰ると、お祖母ちゃんが、必ず仏壇のところに置いてる」
「そうか。それはいいことだ」
「そうすると、悪い成績の時でも、また頑張ろう!って気になるんだ」
「ぞうか、そうか。それはいい」
「お母さんに怒られたくないしね」
「今度は、いい成績表を持ってこような」
「は~~い」

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