花まつり(はなまつり)
お釈迦さまの誕生日
「方丈さん、4月8日の『花まつり』って、どんなお祭りなの? なんか楽しそうな感じだけど・・・」
「楽しそう? そうだな、そりゃ楽しいよ。なんと言っても、お釈迦さまの誕生パーティーだからね。太郎くんも誕生パーティーをするだろう?」
「誕生パーティー? お釈迦さまの?」
「そうだよ、4月8日は、お釈迦さまの誕生日なんだ。お釈迦さまが、この世に生まれたから、私たちは、こうやってお釈迦さまの徳に触れることができるだろう。ほんとうにおめでたい日なんだよ」
「ふ~ん」
天から降ってきた甘露(かんろ)
「この日はね、お寺にね、花御堂(はなみどう)という小さなお堂の中に立っている、子どものお釈迦さまの像を飾るんだ。誕生仏っていうお名前なんだよ。せっかくだから、特別に今日は、太郎くんのために見せてあげよう。え~と、どこだったかな、あったあった。見てごらんよ太郎くん、このお釈迦さまを。右手が天を指さし、左手が地を指さしているだろう? 花まつりの日には、この誕生仏にね、甘茶をおかけするんだよ」
「甘茶をかけるの? なんで?」
「お釈迦さまが生まれた時にね、龍王が御祝いの気持ちを込めて、甘露(かんろ)というあま~い水を、お釈迦さまの頭上に降らしたんだって。だから、花まつりでは、甘露の代わりに、甘茶をお釈迦さまにおかけするんだ」
「甘い水が降ってきたんだ? 不思議だね」
お釈迦さまは王子さま
「あのね、お釈迦さまの名前はね、ゴーダマ・シッダッタ(またはシッダールタ)っていうんだ。2600年くらい昔のインドでお生まれになったんだよ。しかもシャカ族の王さまの子ども、つまり王子として生まれたんだ。お釈迦さまって言うのは、シャカ族の聖者って言う意味のシャカムニ(釈迦牟尼)を略した呼び名なんだよ」
「王子さまだったの? へ~?」
ルンビニ園
「そうそう、お父さんはシュッドーダナ王(浄飯王)という名前、お母さんはマーヤー(摩耶)という名前なんだ。マーヤーがある日、夢の中で、白い象が自分の右脇からからだの中に入るという光景を見て、目が覚めると、マーヤーは妊娠していたんだそうだよ。王さまはね、王子が生まれるっていうので、とても喜んだんだ。それでシャカ族のしきたりで、子どもは女性の実家で生むという習わしだったので、マーヤーは実家に帰ろうとするんだ。
ところが実家に帰る途中でね、ルンビニ園という名前の花園で、水浴びをして休んでいたんだけど、その時、マーヤーが急に産気づいて生まれたのがお釈迦さまなのさ」
「僕も、お母さんの実家で生まれたんだ。いっしょだね」
天上天下唯我独尊
「そうだね。いまの日本でも、同じような習慣があるね。それで子どもが生まれたんだけど、生まれた子ども、つまりお釈迦さまが、7歩あるいて、右手で天を指さし、左手で地を指さしたんだよ。
「もしかして、誕生仏って、その時のお釈迦さまの姿なの?」
「そう、あたり! 天と地を指さしているお釈迦さまの姿だろう? これから言おうとしたんだけど、太郎くんに言われちゃったな」
「へへへ」
「そしてその時に、『天上天下唯我独尊(てんじょうてんげ・ゆいがどくそん)』と唱えたと言われているんだよ」
「てんじょうてんげ??」
「ごめん、ちょっと難しかったな。これはな、この世界の中で最も尊いお方になる、ということを言っているんだ。お釈迦さまはこの後80年の人生を歩んで、この世界の人々を救うために教えを説いて、そして、その教えが2500年以上もたった現代まで伝わり、私たちをお救いくださっているんだよ。そんな将来を予言したとも言えるし、そうなるんだという決意とも言えるかな」
「すごいお方なんだね」
「ほんとうに、すごいお方なんだよ、お釈迦さまは。そしてこの時、天から甘露が降ってきたんだ。とても甘い水が。さっき言ったように、これでお釈迦さまの頭に甘茶をおかけするという習慣が生まれたんだ。それから、このお釈迦さまが生まれたルンビニ園には、色とりどりのたくさんのお花が咲いていたんだって。それで花まつりって言うんだよ」
「そっか、てっきり桜が咲く季節だから、花まつりなのかと思っていた」
「なるほどね、そうした意味もあるかもしれないね。この花まつりはね、日本では、聖徳太子の時代にもやっていたらしいんだ」
「そんなに昔からやっていたんだ! 僕も、来ていい? 花まつり!」
「もちろんだよ。来たら、お釈迦さまに甘茶をおかけするんだよ。それで甘茶をかける時には、太郎くんも、ちゃんと『お釈迦さま、ありがとう』って念ずるんだよ。わかった?」
「うん、わかった。花まつり、楽しみになっちゃった」