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布袋さま(ほていさま)

「よいしょっと」
「おっ、太郎くん。布袋玉を持ち上げているんだな」
「うん!、いつもお寺に来る時は、やっているんだ」
「そうか、面白いだろう」
「うん、玉が重くなったり、軽くなったりだね」
「もう一度やってごらん。玉を何回かたたいて・・・、そう。そして持ち上げて」
「よいしょっと、やっぱり重くなってるよ」
「じゃあ、今度は玉をなでてから・・・、持ち上げて」
「やっぱり軽くなってる! 方丈さん、なんで?」
「それは、太郎くんが、石をたたく時はね。石に対して厳しい気持ちになっているだろう。逆になでる時は、やさしい気持ちになっているだろ。そうした心が、玉を重くしたり、軽くしたりするんだよ」
「へ~、ほんとう?」
「本当だよ。この玉の後ろに布袋さんの石像があるだろう」
「この太った人?」
「そうそう、この布袋さんの右手を見てごらん」
「あっ、玉を持っている!?」
「そうそう、太郎くんが持ち上げていた玉は、この布袋さんが持っている玉なんだ。だから布袋玉って言うんだよ」
「へ~」

七福神って

「太郎くん、七福神って知っているかい?」
「知ってるよ。うちにもあるよ、船に乗ったやつ」
「そうそう、その船に乗っている神さま。太郎くんは、七福神の名前を言えるかい?」
「ううん、弁天さん、恵比寿(えびす)さん、あとはわからないや」
「大黒さん、毘沙門(びしゃもん)さん、福禄寿(ふくろくじゅ)、寿老人(じゅろうじん)、それから太郎くんの言った弁天さんと恵比寿さん、そして布袋さんだ」
「みんな聞いたことあるなあ」
「布袋さんは、この中で唯一、ほんとうにいた人なんだ」
「えっ、神さまじゃないの?」
「今から千年以上前に中国にいた契此(かいし)という禅宗のお坊さんが布袋さんなんだよ」
「へ~」
「そのお坊さんは、いつも大きな袋を抱えて、国中を旅していたんだ。その旅先で、貧しい人に出会うと、袋の中からいろんなものを出して、分け与えたんだよ。布袋さんに救われた人たちは、今度は、いただいたもの以上にたくさんのものを布袋さんにお礼し、布袋さんの袋はどんどん大きくなっていったんだ」
「それでこの布袋さんは、袋を担いでいるんだね」
「そうなんだよ。布袋さんのこの袋には、人々の感謝と慈悲が詰まっているんだ」
「やさしい人なんだね」

堪忍袋の緒が切れた

「袋の中には、宝物がたくさん詰まっているとも言われていて、布袋さんの行く場所行く場所は、富と幸せがもたらされるという話もあるな。それから布袋さんは太っているだろう」
「うん、太っているね」
「それはね、布袋さんの広い度量や心の広さ、やさしい性格を現しているとされていて、安らぎを私たちにくださっているんだ」
「へ~」
「太郎くん、そういや、堪忍袋って聞いたことがあるかい?」
「かんにんぶくろ?」
「そう、堪忍袋。『堪忍袋の緒が切れた』なんて聞いたことがないかい?」
「なんか、時代劇かなんかで聞いたことあるかも」
「『堪忍袋の緒が切れた』っていうのは、もう我慢ができなくなった、という意味なんだけど、その堪忍袋っていうのは、布袋さんの持っている袋のことなんだよ」
「これが堪忍袋?」
「布袋さんは心が広いから、我慢強いんだ。だから色んな人の『我慢』をこの袋に詰めて、みんなのつらいことを全部、この袋の中に入れてしまうんだよ。すごいだろう、布袋さん」
「うん、すごい」

弥勒菩薩の化身

「そうそう。そして布袋さんはね。弥勒菩薩の化身とも言われているんだ」
「みろくぼさつ?」
「そう。弥勒菩薩というのはね、お釈迦さまが亡くなられてから、約56億7000万年後に地上に現れて、私たち人間を救ってくれるという、すごい仏さまなんだよ」
「56億?」
「そう、56億7000万年」
「すごい先だね」
「そうだな。56億7000万年後たったら弥勒菩薩さんに救われるんだけど、それまでの間、人間が苦しまないように、布袋さんとなって私たちを救ってくれているのかもしれないな」
「そうなんだ。何だか布袋さん、見た目は面白いけど、実はスーパーマンなんだね」
「スーパーマン!?、そうだな確かにスーパーマンだな」
「もう一回、この玉を撫でてみよっと」
「そうそう、石だけじゃなくて、友達やお父さんお母さんにも、石を撫でるようなやさしい気持ちでいるようにな」
「うん、わかった! ありがとう方丈さん!」
「じゃあね、また来なさい」

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