本尊(ほんぞん)
お釈迦さまって、知っているかい?
「方丈さん、こんにちは」
「おっ、太郎くん、今日もお祖母ちゃんのお墓参りのお供かい?」
「そうそう、お祖母ちゃん、最近、足が悪いから、一緒に来ないと心配だからね」
「えらいぞ。お祖母ちゃんは大切にしなきゃね」
「うん、お祖母ちゃんが、お墓参りしている間、方丈さんに遊んでもらえって!」
「遊んでもらえか、そりゃいいや」
「へへっ」
「じゃあ、今日は、いいもの見せてあげるよ」
「えっ、なになに?」
「こっちにおいで。ほら、本堂の中に」
「はーい」
「ほら、太郎くん、ここまで来なさい」
「ええっ!? そこあがっていいの?」
「今日は特別だぞ」
「わ~い」
「ここはな、本堂の内陣、という場所で、このお寺の中心の場所なんだよ」
「真ん中に、仏像があるだろう。この仏像が、このお寺のご本尊なんだけど、この仏さまの名前を知っているかい?」
「名前? 仏さまじゃないの?」
「まあ、半分はあっているな」
「お釈迦さま、って知っているかい?」
「おしゃかさま、知ってるよ」
菩薩さまは修行中
「仏さま、というのは、たくさんいるんだよ。例えば、あそこに、観音堂があるだろう。観音堂にいらっしゃるのが、観音さま」
「かんのんさま」
「観音さまも仏さまだし、お地蔵さまも仏さまなんだよ。まあ、菩薩さんって言って、観音さまもお地蔵さまも修行中なんだけどね」
「修行中なの? かんのんさまも?」
「そうそう、観音さまも、修行中。まだ、お釈迦さまみたいに悟りを開いたわけじゃないんだ」
「ふ~ん」
「それでお釈迦さまなんだけど、この仏さまは、二千六百年くらい前に、インドにほんとうにいたお方なんだよ」
「あっ! 前に方丈さんから聞いたことがあるよ」
「そうそう、仏教というのは、ほんとうに生きていたお釈迦さまが、すばらしい教えを説いて、たくさんの人を救ったことから生まれた宗教なんだ。それが中国、日本と伝わって、このお寺があるんだよ」
「へ~」
「このお寺は、曹洞宗という禅宗なんだけど、曹洞宗では、このお釈迦さまが本尊なんだ。つまり、本堂で手をあわせるということは、お釈迦さまに手をあわせるということなんだよ」
「そっか! 今度から、お釈迦さまありがとう、って思いながら手をあわせようっと」
太郎くんの家にもお釈迦さまが
「それにな、太郎くんの家の仏壇があるだろう。あそこにも、仏さまがいるだろう。その仏さまも、お釈迦さまなんだ」
「僕の家にも、お釈迦さまがいるんだ」
「そうそう、仏壇で手をあわせるということは、お祖父ちゃんに手をあわせるだけじゃなくって、お釈迦さまにも手をあわせているということになるな」
「じゃあ、僕の通信簿を仏壇に供えると、お釈迦さまも、見ることになるの?」
「そうそう、お釈迦さまは、太郎くんの成績、全部知ってるんだな」
「え~、困ったなあ。ほんとうは、仏壇にいるお祖父ちゃんにも見せたくないのに。お釈迦さまには、もっと見られたくないなあ」
「大丈夫、お釈迦さまは、成績悪くても怒ったりしないから。太郎くんが、頑張っていれば、それでお釈迦さまは喜んでくれるよ。お祖父ちゃんは、ちょっと怒るかもしれないけどな。はははは」
「方丈さん、冗談がきついよ。お祖父ちゃん、怒ったら怖いんだから」
「ごめんごめん。大丈夫だよ。お祖父ちゃんは、太郎くんが元気なら、それで何も言わないから」
「そうかなあ? そうだといいんだけど」
「お祖母ちゃん、戻ってきたぞ。足が悪いんだから、近くに行ってあげなさい」「うん、今日も楽しかったよ。方丈さん、ありがとう」
「うん、また来なさい。今度は、美味しいお菓子を用意しておくから」
「じゃあ、またね」
「気をつけて、帰りなさいね」