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出世(しゅっせ)

「出世」という言葉は、一般に社会的な地位が高まることを言います。例えば、「あいつは、同期の中で出世頭だな」「あそこのご主人、部長に出世されたみたいですよ」などといった使われ方をします。
 ところが、この「出世」という言葉を広辞苑で引くすと、意外なことが書かれています。

  1. [仏](イ)世に生まれ出ること。諸仏が衆生済度のために娑婆世界に出ること。(ロ)世事を捨てて仏道に入ること。またその人。僧侶。出家。(ハ)叡山で公卿の子息が受戒・剃髪して僧となったもの。(ニ)禅宗で高僧が再び住職すること、高位の寺に転住すること。黄衣・紫衣を賜ること、和尚の位階をうけることなどをいう。(ホ)出世間の略。
  2. この世に生まれ出ること。
  3. 世の中に出て立派な地位・身分となること。

 これを見るとわかるように、最初に説明されているのが、仏教語としての説明で、私たちが普段、使っている意味の「出世」は最後に出て来て、しかもたった一行だけであります。つまり、出世というのは、もともと仏教の言葉だったということです。
 世間という言葉と、出るという言葉を組み合わせた、出世間の略ですが、面白いことに、1.の(イ)のように仏の世界から「世間に出る」という意味と、(ロ)のように仏の世界に入るため「世間を出る」という意味があり、まったく逆の意味持ち合わせているということです。 また(ハ)の叡山というのは、道元禅師も修行なさった比叡山延暦寺のことですが、平安時代や鎌倉時代、そこで公家の子息がたくさん僧侶として修行をしていました。「世間を出て」修行をしているこうした僧侶のことを出世、あるいは出世者と呼んでいたのですが、公家の子息ということで高い地位を得る僧侶も多かったようです。つまり公家の子息である出世たちが、他の僧侶に比べ、早く昇進していくことから、「立派な地位・身分となること」を「出世」と呼ぶようになったということです。
 私たちが使っている「出世」は、俗世間で地位・身分が高くなることをいいますが、もともとの意味では、俗世間を離れ、欲や煩悩を無くしていくことにつながっています。出世することは、悪いことではありませんが、時々、本来の意味に立ち戻って、「世間」を離れることの大切さに思いを寄せてみるのもいいかもしれません。

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